Episode 2 世界を走れる自動運転に
今回は、カスタマーパフォーマンス&CAE・実験技術開発本部の大島 俊一さんと古賀 久裕さんに、未来の自動運転につながる技術についてお伺いしました。
ご担当されているプロジェクトについて教えてください
大島さん:
私は北米向け「ローグ」、欧州向け「キャシュカイ」、あと中国向けのプロジェクトを担当してきました。
古賀さん:
私は日本向けの「スカイライン」、「日産 アリア」の「プロパイロット 2.0」、「ノート」、欧州向けの「ジューク」、先代「キャシュカイ」を担当してきました。
未来の自動運転につながる運転支援技術、「プロパイロット」に関わってきたお二人は、どのように開発に携わってきたのでしょうか?
古賀さん:
「プロパイロット」がさまざまな使用環境下でも安定して効果が発揮できることを、世界各国を実際に走り込むことで検証してきました。
その作業の中で何が一番大変でしたか?
古賀さん:
たとえば、欧州と言っても複数の国があるので、それぞれの国によって環境、地形が変わり、また制限速度の上限も異なります。そのため、どの環境下でもお客さまに不満を感じさせないように作り込む事が必要です。具体的な例を挙げると、ドイツにはアウトバーンの無制限区間があったり、イタリアの海岸沿いは高速道路といっても半径の小さいカーブが多くあったり。国や地域毎の特徴を網羅する実験方法を考えるのが大変でしたね。
「プロパイロット」は白線を認識して走るという事ですが、白線の形が変わっていたり、雨や反射などの状態によって見にくかったりと、状況によってしっかりと認識させるのは大変だったのではないでしょうか?
大島さん:
そうなんです。実際の道にはいろんな種類の白線があって、カメラも得意不得意があります。過去にたくさん走ってきた知見を生かしつつ、新しいプロジェクトでは弱点・苦手な場所を狙って走行して、性能がアップしているのか、まだアップデートしないといけない部分があるのかを確かめながら、一つ一つ評価を重ねてきました。
古賀さん:
人が見難いと感じる場所はカメラも見難い事があります。雪の降った日の道路を想像してみてください。アスファルトの上に白い雪が乗ってしまうと、白線と間違えたり、本当は真っ直ぐな白線が真っ直ぐでなくなり、白線に見えなくなったりしてしまいます。また、雨による路面反射、西日や朝日の逆光、トンネルなどでの明暗の切り替わりなどは、人の目でもなかなか見難いシーンだと思いますが、カメラにとってもやっぱり見難いです。そういったシーンで性能を確保できているか、評価、検証を繰り返し行ってきています。
具体的にはどう改善していくのですか?
大島さん:
センサーで改善する場合もあれば、「プロパイロット」のコントローラーで改善する場合もあります。発生している現象によってケースバイケースですが、お客さまに不安を与えるような事になっていないかという視点で、効果確認を進めていきます。
今、「プロパイロット」はたくさんの車種に搭載されていますが、その車種ごとに評価を一から行う必要はあるのですか?
古賀さん:
これまでの開発の知見が貯まっているので、それらを参考に進めていきますが、センサーやコントローラーの仕様や構成が変更となった場合は、変化点に着眼して我々の評価のやり方も検討し直します。新しい車種や部品でも、以前課題となった事象が見られるケースもあるので、さまざまな見方が必要になると感じています。
そうして調整をしていくんですね
古賀さん:
「プロパイロット」のシステム構成は、仕向地や車種によって異なっているので、常にそれらの差異に着眼して、さまざまな確認を計画、実行する事が重要になります。センサーの数が多ければ必ずしも良いという訳ではなく、数が多ければそれだけエラーが出る可能性も上がるという事も考慮しながら、開発を進めていく事が大事です。
「プロパイロット」は構想から出来上がるまでどれくらいかかったんでしょうか?
古賀さん:
日産が初めて「インテリジェント クルーズコントロール」を世に出したところから考えると、20年くらいにはなると思います。ただし、その間ずっと現在の「プロパイロット」の構想が続いていたという訳ではなく、世界初となるさまざまなADAS開発を進めながらノウハウを蓄積し、今に至っています。
日本と米国、欧州と、それぞれ評価するうえでの難しさはありますか?
大島さん:
先程は欧州での一例をお話させていただいたので……米国で経験した例だと、鉄のフレームで囲われた、車線幅の狭い橋がありました。鉄で囲われているので、レーダーにとってはとっても不利な環境です。また、フリーウェイの車線のかすれ具合も、道路のメンテナンスが行き届いている日本に比べるとかなり厳しい状態ですし、コンクリート舗装が多いのも車線認識カメラには厳しい環境です。白い道路に白い車線が引かれていますから、そりゃあ見難いですよね。なんでわざわざ意地悪問題を作り込んで道路を作るんだ?って思ってしまいます。こういった厳しい環境を走り込んだ経験とデータを蓄積する事で、次の開発に活かす事が出来ています。
古賀さん:
気候も影響しているとは思います。地域によっては、路面が乾いてカサカサしたドライな状態がキープされているなど、地域ごとに違いがありますね。
大島さん:
白い線が引かれる白い路面を、さらに夕方の西日に向かって走るときもありますよね。こういう条件も、システムにとって厳しい環境なので、重要なシーンと考えています。
やはり白線が肝なんですか?
大島さん:
車線認識では当然重要なポイントです。今度は中国の一例を紹介しますが、パッと見きれいに引かれているように見える車線が、実はよく見ると左右で平行ではなくて、道幅が狭くなるように引かれている場所がありました。「プロパイロット」は車線の中央を走らせようとしますから、こういう条件はまた悩ましいですよね。車線認識してそれに基づいて制御させるので、言わずもがな重要なんです。
白線という意味で、地域ならではの難しい所などはありますか?
古賀さん:
これまで日本の話をあまりして来ませんでしたが、日本には日本の難しさが当然あります。代表例のひとつは、首都高のように無理やり高速道路を通している場所ですね。道は狭いし、高速道路なのに真っ直ぐ走る場所が少ない、代表的な意地悪問題です。ドライバーの注意喚起目的で引かれている線なんかも、地域の特徴がありますね。
ほかにも世界各地で評価していてのエピソードはありますか?
大島さん:
欧州だと、イギリスとアイルランドが顕著な例として挙げられますが、右側通行と左側通行、マイル表記とキロメートル表記が地続きで連続しているのも特徴的ですね。切り替わるものがきちんと切り替わるのか、実際に確認に行きました。
「プロパイロット」や「プロパイロット 2.0」の機能について、他社よりも日産の方が優れているところはどこでしょうか
大島さん:
他社車との乗り比べは何台か行いました。日産車の「プロパイロット」では車線維持できていた場所で、他社車だと維持できない場合がありました。
古賀さん:
また、「プロパイロット 2.0」はナビゲーションシステムや高精度地図の情報も活用しているので、規制区間では車線変更を禁止するなど、きめ細かい事ができているのはアドバンテージだと思っています。警報音の出し方などでも、あるメーカーのシステムは何も音が出ずにオフしていて、運転していてオフしている事に気づかなかった経験がありますが、日産車はオフする時にも音で知らせてくれるので、そういう部分でもきめ細やかさ、わかり易さを感じられるんじゃないかと感じています。
私は運転が好きなので、最初に「プロパイロット」機能を知ったとき、私には不要と思ったんです。でもいざ使ってみると「なんて楽なんだ」と感動しましたし、「プロパイロット 2.0」を使ったらもっともっと楽で、個人的にはどんどん怠惰になっていくのではと心配になるくらいでした。
今後もっと開発していかなきゃいけないかなと思うところはありますか?
古賀さん:
「プロパイロット」も「プロパイロット 2.0」も、人が対応する事が前提の支援システムであり、完全にクルマに任せる自動運転ではありません。そのため、人がクルマに任せっきりになってハンドルを握ることを忘れてしまうことがないように、「プロパイロット 2.0」にはドライバーモニターというものがついています。
大島さん:
人が運転することを忘れないようにするために、「よそ見しないでください」「前を見てください」など警告を入れて、人に注意喚起しています。しかし注意喚起の度が過ぎると使いたくなくなってしまうので、今後は更に、システムの信頼性を上げながらドライバーの負担を減らせるようなシステムを作りこんでいくことが大事だろうなと考えています。
「プロパイロット」や「プロパイロット 2.0」は、どんな人に使ってもらいたいなと思いますか?
大島さん:
長距離運転が苦手だなと思っている方に使ってもらえるといいのかなと考えています。僕も長距離運転は好きですが、やはり疲れるというデメリットがあります。「プロパイロット」があると相当楽なので、運転の際に実際にどんどん使って実感してもらいたいです。
古賀さん:
私は普段、ナビもついていない、ステアリングにスイッチがひとつもついてない年代のクルマに乗っていて、運転するのが大好きなんです。そんな私でも、「プロパイロット」機能がついているクルマに乗ると楽だなと思うので、ぜひそういう昔ながらのクルマが好きな人たちにも乗っていただきたいです。助手席に座るより運転するほうが好きな人たちでも、まるで助手席に座っているかのように安心して乗っていられるシステム、助手席で「ああじゃない、こうじゃない」というウルサイ人たちが乗ったとしても文句の出ないような制御を目指して開発してきました。
今後、クルマとの生活がどうなって欲しいという想いはありますか?
古賀さん:
やはり安心してもらいたいですね。何より事故を起こさないのが一番だと思っています。安全面がすごく大事なところだと思うので、そこを守ったうえで、さまざまなお客さまのベネフィットを実現するのが大切かなと思っています。怖いと思ってしまうものは使ってもらえないので、安心して使える機能であることが大事だと思っています。
大島さん:
今は、高速道路で使用する「プロパイロット」「プロパイロット 2.0」以外にも、便利な機能がどんどん追加されてきています。もっともっと進化させて、安心して乗ってもらえるクルマができれば、運転への苦手意識がありクルマから離れてしまっている方々にも、使ってもらえるようになっていくと思っています。
ご自分が携わっている仕事で、誰に何を言われたら一番嬉しいですか?
大島さん:
乗った方に「やべえ!この機能すげえ!!」と言われたら、自分のやってきたことが間違っていなかったんだな、良かったんだなと自信にもつながりますし、嬉しい瞬間ですね。
古賀さん:
「スカイライン」を担当したときに、日本のメーカー初で車線変更支援機能を入れました。他社も最近になって追従してきていますよね。誰かに何かを言ってもらうというよりは、ほかのメーカーに追従されるような、これまでできなかった新しい機能を「スカイライン」で実現し商品として出せたということ自体がすごい誇りです。言い換えれば、他社が後出しで市場に出してくるのは、自分としては「やったな」と思う瞬間です。
日本全国を検証走行して、さまざまな確認、地道な作業をしてきたからこそ実現できた機能かなと振り返っています。他メーカーが追従してくるのを見てニヤニヤする感じです。
他メーカーが追従してくることがイライラじゃなくニヤニヤなんですね、かっこいい!
次回は、自動運転につながる仕組みつくりもプログラミングから! という事で、大人も子どもも一緒に学べるプログラミング講座を進めているお二人に話を聞きます。