Episode 3 未来のエンジニアを育てる
今回は、企画・先行技術開発本部 技術企画部の酒井 雄揮志さんと藤原 美紗子さんに、わくわくプログラミングスクールの取り組みについてお伺いしました。
わくわくプログラミングスクールはどういう取り組みでしょうか?
藤原さん:
わくわくプログラミングスクールは、日産自動車が行っている、クルマに関することをテーマにした小学生向けプログラミング教室です。イベントで、また小学校への出張授業で、2018年から開催されてきました。
わくわくプログラミングスクールはどうしてうまれたのですか?
酒井さん:
わくわくプログラミングスクールが開始されるまでには、いくつかのステップがありました。
当時、開発部門では地球環境問題や交通事故といった社会課題を解決するために「電動化と知能化」を掲げており、小学生向けに電気自動車「日産リーフ」の模型を使用した出張教室「わくわくエコスクール(わくエコ)」が行われていました。
「わくエコ」は、環境問題の説明とともに、「日産リーフ」の実車と模型を使った「電気をつくる・溜める・使う」実験を通して、電気自動車とはどういうものか、なぜ必要なのか、また、いま日産はどんな取り組みをして、電動化するにはどんな問題があるかなどを、子どもたちが楽しみながら理解を深めることのできる体験型プログラムです。
「電動化」については「わくエコ」というわかりやすいプログラムができたので、もうひとつの「知能化」についても何か面白いプログラムができないかと、有志で集まって具体的に検討を重ねてきました。
そして2018年、交通事故ゼロを目指していくための安全運転支援技術や未来の自動運転の考え方・仕組みを学んでもらおうと、「わくわくプログラミングスクール」を開始しました。
今プログラミングって結構話題ですよね? 日産ならではのポイントを教えてください
藤原さん:
そうですね。2020年に文科省でプログラミングが小学校の授業として必修化されたのに前後して、自動車会社だけではなくさまざまなところでプログラミング教室が開始されました。ロボットをプログラミングするようなものもたくさんあったのですが、日産ではまずクルマメーカーとして、プログラミングをどう伝えるか、なぜプログラミングをクルマの会社がやるのかを伝えたいと考えましたね。
酒井さん:
日産が進める電動化は、ゼロ・エミッション社会を作りたいという想いから来ています。そして知能化には、安全で交通事故のない世界を作りたいという想いがあります。わくわくプログラミングスクールでは、リアルなクルマの模型を使うことで、交通事故をなくすために自動車会社として何を行っているのか、そのためのプログラミングとは何かを伝えようとしています。そこが我々のプログラミング教室の特徴で、他の会社や団体が教えているプログラミング教室との違いですね。
こだわったポイントはありますか?
酒井さん:
こだわったのはクルマの模型でして、必ず四輪になっていることと、舵が切れるというところをポイントとして、それを組み立てられるようにしています。さらにクルマの動きでいうと、認知・判断・操作というプロセスに従って、プログラムを組むとどのように動いていくのかを、さまざまなプログラミングをしながら体感して理解してもらうようにしました。
今行っているプログラミングスクールは、事故を起こさない世界を作りたいという想いから、クルマが事故を起こさないためにはどういう動きをすればいいか、実際に搭載されている「衝突被害軽減ブレーキ」を例にして、いわゆる「ぶつからないクルマ」をプログラミングしてつくるという内容です。
そのこだわりのクルマの模型も使いながら、どのようにプログラミングスクールを開催しているのでしょうか?
藤原さん:
模型のクルマ自体は、四輪で動き、(FF※と同じ構造で)前でモーターを回して前のタイヤを動かして、ちゃんとステアリングの操作ができる構造になっています。
プログラミングスクールを進めるうえで、何を使ってプログラミングするかも一つのポイントで、なるべく子どもたちが簡単に操作できるよう考えました。今の子どもたちはパソコンよりタブレット端末の方が身近で使いやすい事が分かったので、タブレットで作ったデータをBluetoothで模型のクルマに飛ばして、実際に動かすプロセスを行っています。
酒井さん:
この模型のクルマにはいろいろなセンサーやLEDライトが付いています。たとえば、前方には赤外線レーザーを発して距離を測るセンサーがついています。実際のクルマだとカメラを使ったり、より多くのセンサーを搭載していますが、この模型のクルマではその機能をシンプルにした疑似的な部品を使っています。前に物があったらセンサーで認識させる、その情報を基に、どのように動かすのか、どんな考え方で動かせばいいのかを考えながらプログラムを作っていく方法を教えています。
それはぶつからないクルマのスクール用のアイテムですか?
藤原さん:
はい、「ぶつからない」対象として、前方のクルマの後ろ姿を描いた障害物です。こういった小道具なんかも準備します。酒井さんが全体のプログラムのストーリーを作って、私がよりわかりやすくするために必要なアイテムを作っていくという事が多いですね。実はこれは全部手作りです!
このプログラミングスクールは何歳くらいを対象にしていますか
藤原さん:
小学校高学年が対象で、4年生から6年生くらいです。小学校へ出張授業として実施する場合は、5、6年生を対象としています。大人の方もいるようなイベントで開催する場合は、4年生の児童の方には親御さんと一緒に来てもらうのが良いですね。
酒井さん:
今後、1年生から3年生くらいの子どもたちにも実施できたらという想いもありますが、タブレット上で操作するのは低学年の子には難しいので、別の低学年用のプログラムツールが必要だと思っています。これから開発していきたいなあと思っています。
講師はどのようになっているのですか?
酒井さん:
クルマとプログラミングについてのお話や実習までできる講師と、社内公募で授業を補助してくれるサポーターで成り立っています。これまで講師とサポーター併せて、5、60名の方に協力していただきました。子どもたちから質問を貰って回答したり、上手くできないところのサポートをしてあげながら授業を進めています。
藤原さん:
講師やサポーターについては、最初は右も左も分からないので、社内で有志の人に集まってもらって練っていきました。参加されたスタッフも、プログラミングに興味というか気になっている方が多かったですね。例えば、自分の子どもたちが体験するのに自分がわからないのは嫌なのでプログラミングをやりたい、海外の学校ではきちんとした手順を踏んで考える論理的思考方法を教えるのに、日本ではなかなかそのようには教えていないようだから、もっといい教育プログラムを作りたいという意見がありました。
将来日本から海外へ行って外国の人たちと仕事をする、もしくは外国の方と日本で仕事をする時に、彼らの考え方のプロセスをきちんと理解した上で話をしないといけない場面もある。その際にプログラミングで考え方を整理したり、仕事をするやり方をきちんと教えてあげたいという想いを、サポーターを募集するときに話しました。この想いに共感してくれる人が少しずつ増えて、サポーターが集まるようになってきました。最初は人数が少なかったのですが、ああでもないこうでもないと言いながら創り上げていくのが楽しかったですね。
子どもたちの反応はどうでしょうか?
藤原さん:
やっぱり物があって動き出す時の感動は大きいんだなと感じます。子どもたちもどこが楽しいかと聞いたら、自分がプログラムしたものが動き出す、なおかつ止まるところって答えてくれるんですよね。その感動を私たちは教えたいと思っています。私たちは自動車会社でモノづくりがベースにあるので、クルマが走る、曲がる、止まるという感動を伝えたいと思っています。
酒井さん:
こうしたスクールでは、最後にコンセプトカーが未来の街を走る動画を流すんです。そこでは電気を電気自動車からビルや街に分ける姿や、自動運転のクルマが人を迎えに来てくれるような、未来のクルマが人々の生活を豊かにしてくれる具体的なシーンが描かれています。動画を見た子どもたちは、スクールが終わってからお母さんたちに「僕、将来エンジニアになる」って言ってくれるんだそうです。お母さんが「なんで?」と尋ねると、「だって未来が作れるんだもん」と。こういう風に本当に言ってくれるんですよ。それを聞くと毎回感動してしまいます。私たちもやってよかったなと思うし、モチベーションもとても上がります。将来少しでも子どもたちの印象に残って、エンジニアになってくれたり、日産車に興味を持ってもらえたらうれしいなと思います。
藤原さん:
どこの小学校をまわっても感動してくれて、「僕、将来日産に入りたい」と言ってくれるんですよ。うれしいですよね。
実際の身近なモノに繋がっている、カタチになるのがとても良いですね。わくわくプログラミングスクールを初めて4年という事ですが、のべどのくらいの人数に教えてきたんでしょうか
藤原さん:
これまでに小学校を対象として、1,500名以上の子どもたちに参加していただきました。イベントでは約370名に参加していただいています。
1,000人単位なことにびっくりしました。コロナ禍で、実際に学校に行ったり、イベントで開催したりが難しいという事で、お家でできるコンテンツも作られたんですよね? さらに今後やっていきたいことについて教えてください
酒井さん:
やっぱりモノづくりというのを、きちんと根っこに持ってやっていきたいなという想いがあります。コロナ禍でも楽しめるようにと動画のコンテンツも制作しましたが、できれば最後はモノづくりとして手を動かして体験してもらいたいなと思っています。
また、「わくわくプログラミングスクール」で使うクルマももっと改良していきたいと思います。付いているセンサーがセンシング(検知)をしてクルマが止まる話をしているので、実際のクルマも模型のクルマも、このセンサーが肝になると思っています。模型もプログラム内容もどんどん日産オリジナルな仕様にしていければいいなと思っています。
藤原さん:
私もやりたいことはたくさんあります。先ほどの低学年向けの教室や、今は「ぶつからない」というプログラミングを体験してもらえるようになっていますが、今実際のクルマに搭載されているレーンキープという車線の真ん中をずれずに走行する技術や、前のクルマと一定の間隔を保って走る「インテリジェント クルーズコントロール」機能、そして「プロパイロット」技術なども実現して、体感してもらいたいと思っています。そういった新しい機能や、街の中でどうやって走るのか交通ルールも含めて組み立てて、どんどん発展させていきたいなとわくわくしています。
それはさらに今後が楽しみです! 今日はありがとうございました
※FFとはエンジンのパワーを前輪に伝えて駆動する方式のこと。フロントエンジン・フロントドライブの略。